日本という国 〜その1〜

 日本というこの国に生まれて約60年、特別に「よい国や〜」とも思わなかったが、そんなにひどい国だとも思わなかった。そう、正確にはここ7〜8年を除いては。そして特にここ1、2年のコロナ禍になる前には。

 

 この国を一番気に入っていた点は、日本国憲法にあの第9条が存在しているからだ。この国に戦力はない。従って戦争をする気もないし、事実戦争はできない、しない国、なのだと理解していた。では自衛隊はどうなのだ、という議論、相手国が攻めてきたら無抵抗で植民地になるのかという「右派」の常套的な「攻撃」はさておき、9条を素直に読んだ人間には、「日本は戦争をしない国」なのだ。つまり平和な国、である。そして夜間を一人で出歩いてもほぼ安全である。医療の皆保険制度はやはり素晴らしい仕組みであり機能している。小さな不満はあれどおおむね人が住みやすい国だと思う。思っていた。決してアメリカや他国ほどではないにせよ、少なくない外国人が日本に住み、流暢な日本語を操り、「日本はいい国や〜」というのを聞くと「そうでしょう」とちょっとだけ誇らしい気持ちになったものだ。

 ところが今はそうではないのだ。僕自身が。日本に住む外国人を見ると「なんでこんな日本がいいのか。帰ったほうがいいかもしれないのに」と思ってしまう。

 今から3年ほど前だろうか、職場の同僚と、とあるビアバーに行った時のこと。案内されたテーブル席の隣に外国人が二人で飲んでいた。しばらくしてそのうちの一人が

「日本はどうしてこんなにいい国なのですか」

と日本語で話しかけてきた。その時の自分の内心で起こったざわつきを今でも覚えている。率直にいうと

「そんなにいい国ではないけどな。」

というざわつきだった。せっかく気持ちよく日本のビアバーで飲んでいるところに水を差すのも悪いと思い、

「どうしてそう思いますか。」

とだけ問い返した。以前なら「ありがとう」という言葉のあとその問いを発したかもしれないがその時はそれを言わなかったように思う。ただ、彼らはアメリカ人で当時はトランプ政権下にいたので、単に比較の観点から<まだ日本のほうがマシか>ぐらいには思っていたのも確かだ。

 その後の会話は。同僚が英語のできる人だったので、日本語、英語による会話を少し楽しんだ。最後のほうで僕が

「How about U.S.President Trump?」

といい加減な英語で尋ねた。相手がどう答えてくれたのか正確には思い出せないが、たいへんだという意味をジェスチャーと共に示したことだけは覚えている。やっぱりな、と僕は得心したのだった。

 その頃は、それでも、まあアメリカもたいへんだけど日本も結構まずいよな、という程度だったかもしれない。ところが今やアメリカはバイデン氏を大統領に選出し、見事に「世界のアメリカ」に返り咲いたのだ。もちろんこの評価には異論もあろうが、総合的に見るとやっぱりアメリカは世界のリーダーなのだ。黒人やアジア人への人種差別、銃規制などその他の問題を抱えてはいても、である。バイデン政権になってからの前政権からの鮮やかな方針転換、ワクチン接種の進行の速度に見るコロナ対策、外交、環境問題への姿勢など見事というしかない。改めて国力の差をまざまざと見せつけられた思いだ。それはワクチン開発国であるというアドバンテージの問題ではなく、「ワクチンを速やかに行き渡らせる」ことのできる「国力」の差だ。政治、行政システム、命令系統の確実性の度合いの差。アメリカと日本の人口比3億3100万対1億3000万を見れば尚更その「国力」の差に愕然とする。まさしく先進国とそうでない国の差に他ならない。経済大国、かつては世界第2位と言われた日本は皮肉にも「経済だけ大国」だったという事実が判明し、その地位も今は昔という現在である。日本が先進国、という幻想を捨て去り、謙虚に国を立て直し、もう少し「まともな」国にしていくことが急務である。